東京家庭裁判所 昭和34年(家イ)1401号 審判 1959年9月01日
申立人 内藤とし(仮名)
相手方 黒岩正(仮名)
主文
一、相手方は申立人に対して、慰藉料として金十万円を支払うこと。
一、調停審判費用は各自弁のこと。
理由
一、申立人と相手方は、隣村居住関係から八年前より知合い昭和二十九年相手方が○○○大学二年在学当時に互に将来婚姻することを約束し、昭和三十年八月下旬頃始めて申立人居間にて肉体関係を結び、爾来相手方の春夏の休暇に際しての帰省の都度その関係をつづけてきたものである。
一、申立人はその間昭和三十一年五月○○日、男子芳文を出生したが、この出生に先立ち、同年四月頃相手方は申立人懐姙の事実を知り中絶を勧めることがあつた。尚又その後も昭和三十四年四月○○日相手方の勧めにより申立人は姙娠三ヵ月で相手方の子の姙娠中絶をしたこともある。
一、申立人は相手方より入籍については、大学卒業後と云われたので、それを信じて今日に及んだものであるが、相手方が大学卒業後会社勤めをするようになると、親兄弟が反対であるからとて申立人の入籍を拒否するのみか申立人には、前に他の男性と関係し子を儲けたことがあるなど人違いによる風説により難癖をつけ、(偶々内藤さち子という婦人が子を分娩し、その相手の親達で引取つた事件と混同していると思われる)本調停手続においては、出生子芳文迄も自己の子でないと云うのである。
一、しかし、相手方は芳文分娩後親子三名で記念写真をとつたこともあり、又本年二月二日申立人との別れ話に際し、子を相手方において行けといつたこともあるので、内心は自己の子であることを自認しているのではないかとも想像される。
一、これらの事情から相手方は、何等首肯される理由はなく、申立人との婚姻を履行しないので、認知の点は別として(当裁判所調停委員会は、子の為相手方が任意認知することを期待する)申立人に対して損害賠償をするのが相当であり、申立人は現在幼児をかかえて親許にて世話になつているのに対して、相手方は○○電機会社の設計担当者として、月収一万円位(日給月給制度)を得ている点、その他諸般の事情を参酌するときは、本件について主文のように合意するを相当とする。
(家事審判官 村崎満)